
音の研究の始まりは、紀元前6世紀、宗教学者・数学者であるピタゴラスからだといわれています。ギリシャ時代に、「三平方の定理」で有名なピタゴラスは数学・物理学として音楽を研究しました。「万物は数である」と唱えたピタゴラスは音への科学的なアプローチを初めて試みました。「音程は数の比で表現される」この発見により、ピタゴラス音韻、リディア法を確立し、現在の「ドレミファソラシド」にあたる音韻を作りました。
音階の調和はのちに、宇宙、天体の調和という考えに発展し、ドイツの天文学者で天体の運行法則に関する「ケプラーの法則」を唱えたことで有名なケプラーに大きな影響を与えました。余談ですが、ケプラーは2009年3月6日に打ち上げられた宇宙望遠鏡に名付けられ、太陽系外惑星を9年に渡って探査を行い、2600個以上の系外惑星を発見しました。そのうちの多くに生命が存在できる可能性があることを示しています。
また医学の分野では、ヒポクラテスの登場により、臨床の分野でも研究が進みました。紀元前5世紀ごろになると医者であったヒポクラテスは音の振動は頭部の中にある骨によって直接脳に伝えられることを発見しました。ヒポクラテスは紀元前5-4世紀の古代ギリシャを代表する医学者で、病気を超常現象ではなく生理学的にとらえ、医学を確立した「医学の父」といわれています。当時から医術が進んでいたエーゲ海のコス島に生まれたヒポクラテスは全ギリシャを旅行しながら、患者がいると聞くとその場所に行き、仮設診療所を開くなどし、研鑽を積んでいったといわれています。日本では、卑弥呼が登場する300年以上も前になります。
その後、解剖学生理学が盛んになり、動物を解剖し、視覚聴覚とも、神経によって伝達されるということが分かってきました。日本では、江戸時代の蘭学医であった杉田玄白が邦訳した解体新書の中に記載があり、より理解が深まっていくことになります。
参照<梶田昭『医学の歴史』2003 講談社学術文庫
さてその声ですが、人間はどうやって声を獲得したのでしょうか?
進化の過程でコミュニケーションを獲得
声帯が正常な状態で発生された音源(声)は、声道を通過し口腔へとむかいます。声帯から唇までの管の長さは約17cmです。人の音声はこの管を通りながら音を共鳴させ、その人個人の音声を発声します。また、異なった母音を発声するために,喉の筋肉をコントロールし、あごや舌の位置を動かすと,声道の中でいくつかの周波数に対する共鳴が起こります。
動物と人間が決定的に違うのは、言葉を自由に操りコミュニケーションをとれる生き物であるということです。動物にも鳴き声などでコミュニケーションをとったりしますが、人間のように複雑な会話はできません。ではなぜ人間が言葉を自由に操れるようになったのか?それは二足歩行と大きな関係があります。人間は200万年前の原人以降、急速に脳のサイズが増大します。脳の進化とともにコミュニケーションという高い知能を手に入れることができました。また、コミュニケーションを容易にしたのは、二足歩行によって脊椎の位置が横型から縦型に変化し、そのため、頸椎のあたりが垂直になったため、四足歩行時は鼻空・口腔・咽頭腔や喉頭がほぼ水平に並んでいた気道が、鼻咽腔で直角に曲がるようになりました。気道が直角に曲がると、音節が分節化されやすくなり、言葉の発声ができるようになったのです。気道が緩やかな鈍角になっている赤ちゃんが あーあーうーうーなどのナンゴから、二足歩行をし出す頃には様々な言葉を獲得するのはそのような理由があるからです。
同時に存在していたネアンデルタールジンとホモサピエンスですが、頭蓋骨の骨格、喉の構造が違いました。ネアンデルタール人は気道が短く、喋れる母音の数が少なかったといわれています。それに比べて我々の祖先であるホモサピエンスは複雑な言語を操り、仲間同士のコミュニケーションを可能にしました。喋り始めたのはホモサピエンスからだといわれています。
氷河期の終わり、ホモサピエンスにとって過酷な自然環境がやってきました。しかし、ホモサピエンスは言葉という最強の道具を得て、この厳しい自然環境を生き抜いてきたのです。ホモサピエンスが未来を考える力を持った証拠が、壁画などに記されています。
言葉こそ、人類の新しい進化の原動力。第二の遺伝子。世代を超えて知識を伝えていく。言葉は進化を飛躍的にはやめます。
人間だけに与えられた発話
このように、人間は二足歩行を手に入れることによって様々な音声を発話できるようになりました。例えば「あいしている。」という文節を発声するために、その声道の筋肉をコントロールしながら、周波数音を作っていくという高等な技を繰り返し行っています。しかし、話すことは息をするくらい当たり前だと誰もが考えているため、その高度な処理についてあまり意識していませんが、これをロボットにやらせようと思うと大変な労力がいります。最近ではAIの登場で、合成音声技術が飛躍的に進化しましたが、まだ人間と同等の発話には至っていません。人間ってものすごく高いポテンシャルを持っている生き物なのです。

